ライフハック心理学

心理ハック

精神分析学から見たToDoリスト

かなり趣味的な考え方に思えるかもしれませんが、フロイトのどの本を読んでも、(フロイトについての本ではなく)タスクリストやGTDのことを思い出すことは、ごく自然にあることだと思うのです。

フロイトは「無意識的な行為の意味」ということを盛んに論じたことがありました。いまもってなお、「無意識的な行動の意味(真相)」を探ることは、精神分析学の中核の課題です。「無意識的な行動の意味」などというと、なんだかよく分からないかもしれませんが、たとえば「ど忘れ」は「無意識的な行動」です。

「うっかり忘れ」の「意味」

タスクリストをつくる目的の1つに、「ど忘れ」を避けることがあります。他にもいろいろな目的がありますが、「うっかり忘れること」を防ぐのは、たしかにタスクリストの目的の1つでしょう。ライフハックやGTDの「専門家」のような人であればともかく、一般のビジネスパーソンが「タスクリストを使う」となれば、その目的に「うっかり忘れ」を防ぐことがあるのは、ごく自然です。

しかし「うっかり忘れ」というのは、一般的な意味では、せいぜい「不注意」にすぎないことかもしれませんが、フロイトにとってはもっと奥深い意味があります。簡単に言うと、精神分析学的に「うっかり忘れ」は、「無意識的にはわざと」(変な言い回しですが)やることなのです。

たとえば、あるクライアントから「強い要請」のメールをもらっておきながら、それへの対応を「忙しさにまぎれてうっかり忘れる」。このような場合、フロイトなら決して、「本当にうっかり忘れたのだ」などとは考えません。意識の上ではそうでも、無意識的にはわざと、対応しなかったのです。なぜなら、対応したくなかったからです。

ですから先ほど使った「不注意」という言葉でも、「不注意にすぎない」などとは言えないわけです。むしろ、無意識が意識の「注意をそらせた」のです。こうした「無意識の力」に逆らおうとすれば、大変な抵抗に遭うことになります。あるいは、とんでもないものが飛び出してくるかもしれません。そうなった時に、大変な惨事を未然に防ぎ、「無意識の好ましからぬ振る舞いになっている原因」を取り除くのが、精神分析の大事な目標です。

無意識の抵抗

こういう発想からすると、タスクリストを使うというのは、無意識の抵抗を自覚することになります。そして、大変な抵抗にあうかもしれません。あるいは、とんでもないものが飛び出してくるかもしれません。タスクリストは、危険です。なぜなら、意識が直面したくないことに、直面するきっかけになってしまうかも、しれないからです。次の文章は、フロイトの「錯誤行為」に関する講義からの、引用です。

あるとき、どんな動機からかは自分にもわからないが、手紙を投函せず、数日の間、机の上に置いたままにしたことがあった。やっと決心してそれを投函したが、宛先人不明で返送されてきた。宛名を書くのを忘れたのだった。宛名を書いて、ポストへ戻って行ったらこんどは切手を貼り忘れていた。そこで、もともと自分はこの手紙を出したくなかったのだということを認めざるをえなかった。

こうした事例をフロイトは、いやというほど大量に集めています。反論したいという気持ちには、誰しもすぐになるでしょう。しかし、彼の記述をいろいろ読み込んでいくと、時に「放置されがちな細かい用事」は、「闇の奥」への入り口にも見えてくるから不思議です。