旧ライフハック心理学

心理ハック

タスクシュートとカーナビ

今回は、タスクシュートの使い方というよりも、これを使うことで私が得ているメリットについて。メリットはいろいろとあるのですが、とっさに聞かれたときに答えそうなのが、「使っている安心感」です。こう答えると「なんだつまらん」という反応をされがちなので、人はどうやら安心などにたいしたメリットを認めないようだと落胆しつつ、もっとキャッチーなメリットをひねり出そうとしてしまいます。

タスクシュートを使っている実感は、まさにカーナビを使った安心感にそっくりです。「紙の地図でいいじゃないか」と言う人はいます。運転に自信がある人が、やや優越感を振りまきながら、時々口にします。「アナログの方が味がある」とか「機械に頼るのは堕落である」ということについて、異論を差し挟もうとは思いません。こうした批判ならば、タスクシュートにも当然適応可能でしょう。

しかし、単純に比較するならば、どう見ても紙の地図よりカーナビの方が便利です。なんと言っても、リアルタイムに現在位置が把握できるのです。この点が比較になりません。どういう方向に進みつつあって、目的地に対する相対的位置が、リアルタイムで把握できることほど、運転していて安心なことはないものです。特に不案内な土地ではそうです。

タスクというものもまた、不案内なことが多いものです。何度も繰り返しているルーチンタスクのように、かなり「勝手のわかっている」タスクが並ぶ日ももちろんあります。しかし、それですら朝の内から完全にクリアになるものではありません。そういう意味では、仕事は山歩きと似ているようです。よく知っている山でも油断は禁物でしょう。地図も必須です。

タスクシュートを使うということは、カーナビを使って山歩きをしているような感じなのです。紙でタスクを管理するのが、紙の地図で山を歩くことだとするなら、まさにそうです。現在位置が、リアルタイムに把握できる。今どこにいて、最終地点との相対的位置が、つねに把握できる。途中で道に迷うということが、決してありません

運転していてよく感じていたことですが、出発地周辺と、目的地周辺のことは、イメージしやすい。もちろん出発地点が自宅であれば、これは当たり前ですが、問題になるのは途中なのです。途中が怪しげなイメージの中に包まれていて、「まあ、行ってみれば何とかなるだろう」などと言いつつ道に迷う。私の場合は方向音痴だということもありますが、カーナビ以前は、ちょっと遠出をするたびにそれでした。

紙の地図では通常、「ランドマーク」というものを頼りにします。一般のスケジュール管理ツール(紙の手帳も含む)で言えば、これは「予定」に当たります。タスクシュートで言えば「壁」。つまりタスクシュートというカーナビでも、ランドマークは一定の役割を果たしているのですが、スケジュール管理ツールにおける「予定」ほど、決定的な役割ではないのです。ランドマークは、確認の目印に過ぎません。「今ここ通過中。予定通り」といったところです。

そして、目的地に近づけば近づくほど、だんだんと「なぞっているだけ」な感覚になっていくところも、タスクシュートがカーナビに似ている点です。徐々に「収束」されていく感じなのです。

こうして比べてみると、ほんとうによく似ています。もたらされる安心感も、全くよく似ています。カーナビを手にすると、ちょっと紙の地図には戻れないように、タスクシュートになれてしまうと、これ抜きではスタートが切れなくなります。あのもやもや感と不安感の中に放り出されるのに、とても耐えられなくなるのです。

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「注意」について

本書は、きわめてマニアックな「注意」の本です。こうした本にのめり込んでいくということは、「注意」だけで生計を立てていこうというような話です。ふつうの人はそもそも、こうした本を読まないし、買いません。

私は留学時代、本書をいわば「むりやり」読まされたのですが、衝撃を受けました。基本的に私は、ダニエル・カーネマンの「注意のリソース」という観点から「注意」をとらえていたため、どちらかと言えば「自動処理プロセス」というものを無批判に受け入れている傾向があります。私がよく使ってしまう言葉で言えば「ロボット」です。

よく持ち出される例としては、タッチタイプ。それから運転でしょうか。たとえば私は渡米直後、方向指示器を操作するつもりで、しょっちゅうワイパーを動かしていました。左右逆だからです。この例に限らず、運転操作の大半は、それなりのドライバーであれば、「自動処理プロセス」でやってるつもりになっています。「逐次操作」に頼りっぱなしでは、危なっかしい。

しかし、冒頭に上げている The Psychology of Attention の著者は、「自動処理プロセス」に対して、批判的と言わないまでも懐疑的です。つまり、注意が並行して「分配」されていたり、「ほとんど無意識的に何かを行っている」という表現が、「安易に使われている」といった調子なのです。そして、これまた断言はしていないのですが、(本書は読者が困るほど、著者による断言があの手この手で避けられていて、とてもストレスのたまる本でした)、「注意は素早くスイッチされている局面が多い」という指摘が記述されているのです。

ではどこが、というよりも何が、注意を「スイッチしている」のか? 本書ではそれもよくわかりません。認知心理学者なので、「私」とは言わない。もちろん「自我」とも言わない。「帯状回前部」とも言い出さない。「島」も出てきません。

ただ、「何でもかんでも並行処理」に対して批判的なのは、よくわかります。「認知資源」などと安易に言いますが、(私も本の中でおそるおそる使ってしまっていますが)、「資源」と言っても石油ではないので、その「量」を「はかる」などと言うわけにはいかない。あくまでも仮定的にそうしたものが「ある」として考えると、便利だという話に過ぎないとも言えます。

あるいは今なら、「計る」こともできそうです。脳内血糖量の変化など、生理的な指標をモニターすることにより。しかし本書では、この面からの反証をも持ち出します。

The critical question is whether the mental tasks that people find subjectively effortful actually increase consumption of metabolic energy more than subjectively easy tasks. Studies of blood flow and glucose uptake suggest that they do not. Overall, cerebral blood flow does not seem to differ as a function of whether the subject is thinking hard or passively sitting, for example ( Sokoloff et al., 1955). (p387)

一応原文から引用してみましたが、ようするに、少なくとも「メンタルタスク」に限って言うと、本人が「大変だった」とか「努力がいりました」と言っていても、脳にそれらしい「努力の形跡」が現れないという実験結果です。ただし、おそらくこれに反論できるような実験結果もあるはずです。

しかしここから、「マルチタスク」はよくないとか、「GTDに習熟すると集中できる」といった話につなげたいという立場からすると、元々のところに何か確固としたものを探し出しておきたいと思うのが自然です。(それをどの本に書くこともできなくても)。そういう願望から、「認知資源」は有利な概念なので、その根底にクエスチョンを差し挟むような本書は、とても気になる存在なのです。

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タスクシュートの使い方【ファーストタスク】

「すごい人」はなぜ自分の1000倍以上もすごいのだろう?

こういう考え方は、かなり不健全なものだと思うのですが、なかなかぬぐいきれません。時にこの「すごい人の秘密」が、いささか趣味の悪い扇情活動となって現れるものです。それに引っかかる自分も自分だと思いながら。

この精神的不衛生に立ち向かうことは必要で、その最善の手段は自分にとって、「ファーストタスク」と「less is more」をよりどころとすることだと、自分自身では結論づけつつあります。

「ファーストタスク」とは、私にとっては『マニャーナの法則』によって学んだ考え方で、「どうしてもやりたいことは、すべての仕事を開始する前にやること。仕事でもなく、家族からの頼まれごとではない、純粋に自分がやりたいだけのことをやれるのは、このときをおいてなく、しかも、一つしかできない」というとです。

私はこの簡単な考えを、一読しただけで自分のものにすることができず、何とか「ファーストタスク」を3つやろうとして、挫折し続けてきました。それもごく最近の話です。

「ファーストタスク」を「一つに絞り込む」きっかけを得たのは、大橋悦夫さんの『成功ハックス』を読んでから。「一つしかできない」と『マニャーナの法則』に書かれてあったのに、5分のことを三つやろうとしているあたりですでにアホなのですが、『成功ハックス』にはおもしろい考え方が強調されていて、「やりたいことなんて、どうせ揺らぐものだから、その揺らぎ全部につきあっていけば、そのうちに集約された『本当にやりたいこと』に行き着ける」とあったのです。

とはいえ私はものぐさなので、本にあったとおりに、システマティックにこの方法を試したというわけではなく、適当なメモに散発的にやりたいことを書き続け、それが溜まるまでいくらやりたくてもやりたいことでもやらないという日々を送っていたところ、集約するというよりは、やりたいことでもやりたくない日も少なくないという事実に行き当たったのです。

この段階で、「やりたいこと」を「このブログを書くこと」に決めてしまい(それがどうしてやりたいことだと言えるのかという疑問は、一応ここまでのプロセスで解決済みということにして)この決意をつなぐ、具体的方法に移ることにしました。私としては、当然、タスクシュートの早い時間帯に、「このブログを書く」という「ファーストタスク」を「繰り返したスク」として設定するのがベストです。

これで続けることが一応できています。まだ短い間で、油断は禁物です。そしてこれを見ていただくとわかるとおり、かなり「贅沢」な見積もりの取り方です。0.9はめったなことでは割り当てません。しかも今日は、夕方に約束があるので、予定がかなり早くなっています。こういう日にブログエントリ0.9(時給ほぼ0円)はあり得ないのです。

それでもこれがやりたくて、私はこれをやることにしていますが、衝動が発生した時点でタスクを盛り込んだときには、その行為は「やりたいこと」に間違いありませんが、過去の衝動で規定される現在のタスクは義務に近い印象になります。しかしこれは義務とは言い切れないため、思わず省いてしまいそうになるのです。そんなときには堀さんの『情報ダイエット仕事術』です。

「一つの習慣で本当に足りるのか?」と思われるかもしれませんが、二つ以上の行動を同時に導入すると、安易な方に偏ったり、効果が見えにくくなったりするためにモチベーションはかえって低下してしまいます。

私の「一つの習慣」は1日1本の論文を読むこと

たとえば、私の研究者としての「一つの習慣」は毎日1本の論文を探して読むことです。世界には数多くの論文が存在し、とても1日1本では自分の専門に限ったとしても網羅できないのですが、それでも「1本」にこだわることには大きなメリットがあります。
まず1本しか読めないのですから、最もインパクトの大きい大事な論文を探そうと目が鋭くなります。そしてそれ以外の論文は読めませんので、情報収集を口実に別の作業が圧迫されることはありません。(pp24-25)

これがless is moreです。「ファーストタスク」はまず絶対と言っていいほど、ネクストアクションではありません。それでは永遠に先送りされてしまいます。「ファーストタスク」は、原則として、ファーストアクションでなければいけないのだと思います。

▼参考図書

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タスクシュートの使い方【カベ】

今日はタスクシュートの使い方と言うよりも、仕事術的な考え方の話です。

拙著『ルーチン力』をはじめ、シゴタノ!でも時々「カベ」という用語を使いますが、これは要するに「プチ締め切り」とも言えますし、仕事のモチベーションを高めるための、ちょっとしたご褒美タイムと考えてもいいでしょう。

元を正せば、私の知識の及ぶ範囲で言いますと、このことを強調されていたのは野口悠紀雄さんだったと思います。野口さんは、学者ですから学術会議で海外へ出る。その際ついでに観光旅行もされるのでしょう。海外へ出なければならない、そのタイミングが「カベ」になる。もっともこれは、決して「プチ締め切り」などというものではないようですが。

私たちは一般に、次に確定的に楽しいことが待っているとなると、モチベーションに火がつくのです。仕事が終わったら、デートがあるとか、そういった話です。そういう日はたいてい、デートがない日よりは、進行具合がよく、懸案もこなせたりします。

これをタスクシュートでは、意図的に利用しています。タスクシュートはここ何回かで述べたとおり、基本的に扱っているのが「タスク」なので、何をどういう順番で片付けようと、あるいは先に送ろうと、それはすべて本人の選択に任されています。しかし、中に本人の自由にならない「予定」が混じっている。これが「カベ」として働きます。

たとえば先日も上げたこの日の例では、当然「テニス」や「昼食」は「カベ」に当たります。そこ近辺にさしかかるほど、そこまでにこなした仕事へのモチベーションは自然と高まっています。楽しさと時間的な制約のおかげで、頭が自動的に興奮してくるからでしょう。

このカベを意識的に増やすこと。それもなるべくなら、ポジティブな「カベ」を増やすことによって、仕事に対するモチベーションを常時高いレベルに保持しておくことができるのではないか、と、よく考えています。

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タスクシュートの使い方「(repeats)」

拙著『ルーチン力』で強調したことなのですが、私たちの仕事ときたら、「ルーチン」ばかりです。これはライターといえど、例外ではないはずです。

タスクシュートでは、休憩も食事もタスクとして取り扱いますから、いきおいルーチンが増えます。私の実際例を見てもおわかりの通り、「繰り返し」ばかりです。というよりも、全部が繰り返しになっている日がふつうです。

繰り返しタスクのつくりかたは簡単です。タスクの行にカーソルを合わせ、「アドイン」や「スケジュール」や「繰り返したスク設定/解除(R)」を選択するだけ。するとタスクの後ろに(repeats)と付きます。その状態で同じアイテムを洗濯すれば、解除されます。おそらく、ダイレクトに(repeats)と打ち込んで付け加えてもかまわないと思います。

このようにして、繰り返したスクと設定されたタスクは、完了時に問い合わせのウィンドウを表示させます。次のような表示で、次に同じ仕事をするのは「何日後か?」と尋ねてくれるのです。

一週間おきにする仕事であれば、「7」を入力すればいいでしょう。今日が月曜日で、木曜日にもう一度同じタスクをするのであれば、「3」と入れればいいわけです。翌日であれば「1」。

ここで大切なことがあって、タスクシュートでタスクを新たに作るということの意味は、そのタスクを終わらせることのできる時間を、あらかじめ差し押さえるということになります。ですから、「1」日後に同じタスクを繰り返すということは、翌日の同一の節に、見積もり時間が反映されてしまうということになります。

たとえば今、このエントリを書くために見積もっている時間は、0.9(54分)。今はお昼の12:00-15:00の間ですから、タスクシュートの節設定にしたがえば「C」節です。これは、毎日のタスクにしてあるので、(repeats)が付いています。つまり、このタスクが終わったら、「1」を記入して翌日にコピーします。すると、翌日の「C」節の0.9時間が差し押さえられてしまうのです。

翌日以降に差し押さえられた時間の見積もりは、エクセルファイルの下の方の「タブ」を見てもらうとわかります。「日別見積もり」というタブがあって、そこに、翌日以後の節ごとの時間の消費予定が反映されているのです。

以上のような話はすべてもちろん、「シゴタノ!」にも丁寧に掲載されていますので、参照していただけるとよりわかりやすいでしょう。

▼毎日繰り返し行うタスクの登録を自動化する
http://cyblog.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=195

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