旧ライフハック心理学

心理ハック

人前であがらずに喋るためのツール

先日、東京ライフハック研究会で利用状況を公開したところ、好評だったのでエントリにもアップします。タスクシュートをプレゼン中に使うのです。

プレゼン中にもお見せした画面なのですが、イメージは、以下のようになります。

Windows XP Professional-1.jpg

これを使っているだけで、とても落ち着いて、プレゼンができます。GTDの「ネクストアクション」に集中できる原理とまったく一緒です。

タスクシュートは、全タスクの見積もりを出せば、終了予定を計算してくれるというシンプルなツールです。プレゼンでは、どのテーマにどれくらいの時間を割き、最終何時までに終わるという予定がはっきりあるはずですから、タスクシュートと相性がいいのです。

仕事では、今日の0:00までに終わるつもりだったけど、もう1:39過ぎているよーということが許されますが、プレゼンでは許されません。時間の超過は多くの場合、多くの聴衆をかなりいらだたせるものです。(聞いている人たちは、聞き終わってから約束があったりするのです)。

逆もダメです。プレゼンの場合、話すことなくなっちゃったから1時間早く終わりますーというのは、相当勇気のいることです。私は他人がそれをやるのはOKですが、自分でやる勇気はありません。

しかし、特に慣れない人は、120分をどう分配するか、事前に入念なチェックをしておいても、けっこう難しいでしょう。タイマーや時計をもっていても、それが眼に入ってこないほど緊張してしまうことだってあります。

というわけでタスクシュートを使います。私は最初の頃、これに大いに救われました。これを見れば「今やっていること」が何で、「次にやること」が何で、このままのペースだと何時に終わり、巻けばいいかゆっくりにすればいいかが即座に判断できるからです。

もう一つ、あがらないためには非常に重要なことですが、「現在時刻が無視できる」のです。タスクシュートを使い慣れている人は知っていることですが、これを使っていると「終了予定」だけに注意すればいいという状況が生まれます。

Windows XP Professional-3.jpg

当たり前のことですが、プレゼンでは、この「終了予定」が安定しているほど望ましいと言えます。いつ見てもこの時間が同じなら、巻き過ぎも無駄話も避けられていることを意味しているのです。

単にペース配分するだけなら、プレゼン用のタイマーや、「あと10分」のようなボードを見せてもらえばすむと思われるでしょう。慣れている人なら、あれで十分です。

ですが、あがっているとそれすら眼に入らなくなるもです。緊張が過剰だと、心理的な視野が狭くなるせいなのですが、タスクシュートは、心理的な視野が狭いままでも、広い視点で見たいと思っているものを目の前に提示してくれるわけです。

心を気丈にできなくても、気丈な心を持っている人ができていることを、ツールが補助してくれると言ってもいいでしょう。

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【緊急告知】東京ライフハック研究会分科会で喋ります

一週間もありませんが、11月3日(水)に東京ライフハック研究会の分科会に招かれております。

詳細は以下の通り。

東京ライフハック研究会 タスク管理分科会Vol2を11/3(水)に開催します。

ライフハックの中でも極めて実用的な部類に入る「タスク管理」、この勉強会は仕事やプライベートで成果を上げるための方法、失敗しがちなポイント、そして実践方法やツールなど、これらに注目し参加者同士楽しく情報共有できる場です。

■今回のテーマは「タスク管理の手法」について
■ゲストスピーカーに心理学ジャーナリストの佐々木正悟さん
■参加者同士で学び合えるグループワーク
■参加者によるライトニングトーク(ミニプレゼン)も募集

http://kokucheese.com/event/index/5226/

私はそんなに長々とは喋りませんが、10月29日の「東京ライフハック研究会」に行きそびれたとか、本を持って行かれなかったという方は、もしご都合よろしければ、どうぞ。

出版記念パーティではありませんが、本についての茶飲み話も、個人的には大歓迎です。

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エイトケン教授の記憶術

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次のエピソードは、本日発売の『ライフハック心理学』に収録した内容ですが、残念ながら心理学の教科書でも、あまりよく出てはこない話です。

私がこの地味なのエピソードをわざわざご紹介したのは、これを読むまた自分自身当然のように、記憶力を発揮するために、エイトケン教授のアドバイスとは逆のことをやっていたからです。

それは当然で、あらゆる人が私の知る限り、記憶力についてエイトケン教授とは逆のことをアドバイスしています。だから、何か当たり前のように、記憶力を発揮するためには集中力を高める、という発想しか浮かばなくなっていたのです。

エイトケンは、数学者であり、バイオリンを暗譜で演奏し、英文学に堪能で、ラテン語や英詩を暗唱し・・・という人だったそうです。近くにいたら、「勘弁して欲しい」と思いそうな方ですね。その上そういう「学術的な記憶力」だけではなく、「目撃した出来事の詳細を、人名、日時、場所などの属性情報までふくめて正確に再現できたので、委員会が非公式の議事録として彼に相談していたというほど」だったらしく、便利そうな人でもありますが、書いているだけでもいやになってきます。

そのエイトケン教授の「記憶術」とは次のようなことでした。ここからは拙著を引用させていただきます。

そのエイトケン教授が書店へ入って立ち読みした内容を「正確に記憶」できたという話を聞けば、「記憶の秘術」を知りたくなる人は多いだろう。事実彼は、意外な方法論を述べる。エイトケンはこう言う。「専心ではなく、弛緩をますます必要とすることを発見した」と。つまり、ぐっと目をこらし書物に集中するばかりではなく、リラックスをますます必要としているというのである。これは私たちが暗記や勉強をする際に教わってきたこととは、全く異なっている。ほとんど逆である。
 エイトケンもこの点を指摘している。「初めは没頭する必要があるかも知れないが、しかしできるだけ早く弛緩すべきである。それを実行する人は非常に少ない。不幸にして、これは学校では教わらない。」

どうしてこういう方法が、有効なのでしょう? その理由は、少なくとも『観察された記憶』にはしっかり収録されていません。認知心理学の本だというのに。

で、私がとりあえずできる説明はこうです。例のヤーキーズ・ドッドソンの逆U字を使って考えてみます。


IMG_0042.PNG

こういう図です。物事をうまくやるにはちょうどいい緊張感を持つことが大事で、リラックスしすぎていても失敗するが、緊張しすぎても失敗するという。直感的に理解しやすい話だと思います。

しかし、このU字は面白いことに、課題の難易度が上がると、覚醒レベルが低い方がうまくいくようにずれるのです。だから次のようになります。


IMG_0043.PNG

これを見ると、テニスなどで相手が格上だからと言って、むやみに意気込んでもいいことはなにもないようです。ちなみに課題が易しくなると覚醒レベルが高いところにピークが動くわけですから、格下相手に気を抜くのは賢明ではないのです。

さて、一般に「記憶術を活用したい」と思うような場合には、課題は簡単ではないと思われます。楽にこなせるような課題に取り組んでいるときあえていつも以上の「記憶力を発揮したい」などとは思わないでしょうから。

したがって、記憶力を普段以上に発揮したければ、リラックスした方がいい、という結論になるわけです。それにたいていの場合、「記憶しよう!」と人が強く思っていると、緊張感が高くなりがちですから、どちらにしてもリラックスを心がけると、いい結果につながりそうです。

ただし、ピークに持って行くにはコツが必要ですので、そういう練習をいくらか積む必要はあるでしょう。「不幸にしてこれは学校では教わらない」のです。

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『ライフハック心理学』は続編ではありません

何名かの方におたずねされたので、そういう見方もできるのかと急に不安になり、明日を前にお断りさせていただきます。

新しく東洋経済様より出していただいたのは『ライフハック心理学』です。
以前、アスキー社様より出していただいた『ライフハック心理学』とはまったく別の本です。

今回出したのは、はっきりと心理学に重点を置いた本です。前回の、Googleカレンダーの活用法などを前面に押し出した本とは、まったく異なります。

紛らわしいネーミングで、大変申し訳ありませんが、ぜひお手にとって確かめていただければ幸いです。個人的には、ちょっと珍しい本に仕上がっていると思っています。


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まずは正直な行動観察から

実際にハックをやってみたり、考え出したりする際に、いちばん重要なポイント。それは、実は「自分に対する正直な観察力」だと思う。自分に対して些細な過大評価をしないこと。

高畑正幸『』(河出書房新社)より

自分に対する些細な過大評価を放置する、もしくは気づきすらしない。というのが、もっともライフハック的でない態度、ということになるでしょう。

・自分の記憶力を過信する
・自分の几帳面さを過信する
・自分の意志力を過信する
・自分の継続力を過信する


そうすると、記録をとらなかったり、あとでさくっと片付けようとしたり、寝てはいけないところで寝入ってしまったり、安易に新しいことを始めてしまったりするわけです。そうして失敗すると、「さらなる記憶力」や「さらなる意志力」を求め、自分の至らなさに対する、自罰的傾向を持つことになります。

ライフハックで、一見かなり面倒そうなことを、可能な限り面倒さを廃しつつ継続する手法が紹介されるのは、もしも「記憶力」や「意志力」が、「こんなに低いというのが現実だとしたら、どうする?」という問題に応えるためです。

対策はおおざっぱに分けて3通りあって、折衷案をとることもできるのですが、折衷案は結局問題をそのままにしてしまうことも多いため、原理主義的な「回答」が必要とされるわけです。

1.現実的な意志力の弱さにすべての元凶があるのだから、意志力をもっと発揮するべきだという、体育会系的な解決案

2.意志力や記憶力の弱さを相当にひどいものと受け入れて、ツールや工夫による解決を探るライフハック的解決案

3.意志力や記憶力の弱さは人間らしさなのだと受け入れて、理想主義を廃した「生き方」に徹する、諦観的態度


「朝はとにかく5時には起きる!」という態度と、「二度寝するのが当たり前」という態度は、当然相容れないため、1と3の態度の間には緊張感があります。ライフハッカーはしばしば、両者の緊張の間にあって、分裂しそうになります。

あるいは、分裂気味だからライフハッカー、なのかもしれません。

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