ライフハック心理学

心理ハック

「判断する時間」を確保する

思考するにも時間はかかる

今では当たり前のように思えることですが、少し前には、「思考にも時間がかかる」などというのはさほど自明のことではありませんでした。大脳の中のニューロンと、「思考」がこれほど密接に結びついていることが明らかでなかった頃には、「なぜ思考に時間がかかるのか」をはっきりと説明する手段がなかったからです。

今では明らかに、思考するのに時間がかかることを、説明できます。説明できるか否かはおくとしても、時間がかかるという実体験はお持ちのはずです。メールを出すか、出さないかで悩んでいれば、時間は刻々と過ぎていくことでしょう。

その場合には、メールを出したい欲求やその意味と、メールを出してしまった後に被るかもしれない被害とを、計量しているはずです。これはもちろん思考の一形態でしょう。思考しても結論が出ないからグズグズしているわけですが、結論は実は出ていて、ただ結論を感情的に納得するのに、時間がかかっているのかもしれません。

感情的に自分を納得させるような「理由付け」を編み出すのもまた、思考の一形態です。こういうことをやっているうちにも、時間は経過します。つまり、思考し、決定するための時間を、きちんと別枠でとっておくべきなのです。「タスクをなかなか実行できない」という中には、実は「タスクに取り組むための決断に時間がかかっている」という場合がよくあります。

思考中は脱線しやすい

しかも、苦しい思考中には、脱線しがちです。決断を迫られている中で、問題を考え抜くのは苦しいものです。ついつい、その感情をやわらげるために、関係ない慰みごとに手を出してしまう。そんなこともよくあるでしょう。

この理由があるために、ますます思考するための時間を別枠で設けておくべきだと思うのです。結論が出ないまま、仕事の実行モードに入ってしまいますと、仕事の実行中、何が原因か明らかにならないまま、仕事から離れたくなります。

原因は、結論が出ていいないことをやる苦しさから逃れるたいという気持ちなのですが、人はしばしばこの状態を「やる気になれない」という表現を使って、わかりにくくしてしまいます。問題はやる気のなさではなく、結論が出ていないことにあります。

決断が終わっていれば実行はたやすい

決断が未完のままだと、何かと仕事から離れたくなるのと逆に、結論がはっきりしていれば、仕事を終わらせるのは意外に簡単です。

これも、よく「手がけてしまえば仕事は片付く」というふうに表現されるため、「その手がけるまでが大変だ」という堂々巡りに陥るのです。「手がけてしまえば片付く」ということがしばしば起こるのは本当ですが、これは、手がけるまでに結論が出るという場合と、手がけているうちに決心がつくということがあるからです。

やりやすいことほど、決断が難しくないものです。しかし、いかなる決断もせずに済むタスクというのは、この世にほとんどありません。概して、行動が速い人とというのは、決断が非常に速いのですが、決断が非常に速いのは、あらかじめ基準が極端なほどクリアになっているからです。

たとえばアマゾンで書籍を買うという行動を考えてみましょう。本を買うのが速い人は、本を買うべき基準が明快なのです。「欲しいと思った本はすぐに躊躇せず買う」という基準があったりするのです。お金のことに頓着せずに。それに対して私のように、お金が少しでもかかるとなると、えんえん悩んでしまう人間は、どうやっても本を買うのに時間がかかります。基準が明確ではなく、結論に至るまでの時間が大いにかかるからです。

ですから私のような人間にとって、本を買うためのライフハックは、いくら以上のお金を使うなら、どの部分(はじめにや目次や装丁など)にどの程度満足感を覚えられたか、という基準を明らかにしていくことにあります。タスクも小分けにした方がいいように、決断も小分けにしていくことができるのです。そのためにもやはり、「決断するための時間」を別枠に設けているわけです。