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苦手を克服するために「好い鏡」となる人を見つける

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数年前、私が最初にプレゼンする直前のことです。当時はプレゼンでもパートナーとして一緒に仕事をしていたシゴタノ!の大橋悦夫さんが、「佐々木さん、プレゼン中に落ち着かなくなったら、あの人を見るといいですよ」と言って、聴衆のひとりを指さしました。

そこには、人の良さそうな男性の方が座っていましたが、どうも意味が分かりませんでした。とりあえず、大橋さんという人はこうしたアドバイスの仕方をする方なので、承っておいてプレゼンを始めました。

今でも思い出すと冷や汗をかくという思い出ですが、最初のプレゼンで緊張するなと言う方が無理というものです。おそらく2分と経たないうちに、私の頭の中はホワイトアウトして真っ白になってしまいました。

そのとき大橋さんが指さしていた「あの人」のことをいきなり思い出し、急いでそちらに目を向けてみると、ひどく感心した様子でしきりにうなずいてくれていました。

私はそれでだいぶ落ち着き、自分がしゃべっている内容と、時計を見る余裕とを、いっぺんに取り戻しました。その後も「ピンチに陥ったとき」には必ず、その方の方を見るようにしていました。

人は他人の反応を見て自分の価値を知る手がかりとする

ハインツ・コフートという心理学者がいました。フロイトの弟子でフロイトの理論を発展させ「自己心理学」という理論を確立します。

彼の理論は説明が難しいのですが、「鏡映的自己」という独特の概念があります。特に彼が指摘したのは幼児と養育者の関係なのですが、幼児は養育者の反応や態度から、自己イメージを形成していくと考えました。

養育者の反応が弱かったり常にネガティブだったりすると、自己イメージのいわば「胸像」が好ましくないので、自尊心が低くなるというわけです。それを回復させるのが、自己心理学的なカウンセリングの目的の1つになります。すなわちクライアントのよい面を映し出す鏡となるべくつとめるわけです。

その、よい面を映し出す鏡を、大橋さんは聴衆の中に見つけ出してくれたわけです。これは私は大変面白い方法だと思っているので、今に至るまで必ず念頭に置き、「あがり症」の人にはオススメしています。

これは苦手を克服する方法として、プレゼン以外にも使えます。今では鏡映的自己とは言わず、ほとんどのカウンセラーに必要な能力として、「共感能力」が求められることになっていますが、言わんとしていることはほぼ一緒です。

あなたの能力を最大限引き出してくれる「他人」とは誰ですか? 言い換えると、誰がそこにいてうなずいてくれたら、苦手なことでもできるような気がするでしょうか?