ライフハック心理学

心理ハック

009 馴染み深くて新しいもの

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このエントリは2006年4月7日のエントリを加筆修正しました。

さてあなたは、『ドラえもん』のシリーズが大好きだとします。今までに、第1巻から第19巻まで買いそろえてあって、それぞれを10回以上読んでしまいました。筋もおおむね暗記してしまいました。だから、第20巻が早くでないかと、首を長くして待っています。

さてここで、質問です。どうして、第20巻を待っているのでしょう。なぜ、10回も読んで、筋まで暗記してしまった、第19巻ではいけないのですか?

この疑問を、たいていの人間ならバカバカしいと思います。そんなの、当たり前のことじゃないかと。
けれど、当たり前のことではないのです。「第19巻」に比べて「第20巻」の方がずっと面白いという保証はありません。

そうそう作品というものの傾向は変わりません。あの話には、一定のパターンがあります。そして、シリーズものというのは、本来そうしたものです。そのパターンを、人は欲するのです。水戸黄門が、一定のパターンに沿っていても、ファンはそのことに腹を立てないように。

それどころか、「ひかえ、ひかえい!」というあのシーンがないと、むしろ腹を立てることでしょう。
にもかかわらず、つまり、どうせ同じパターンを欲しがっているくせに、人は「まだ見たことのない」ものを欲しがるのです。同じパターンであることはかまわないが、完全に同じ筋立てではだめなのです。面白くも何ともない、と思ってしまいます。

つまり、この心理を一文で説明するならこうです。

「馴染みのパターンを使った、新しいモノをみせてくれ!」

自分がよく知っているパターンの、新しい行為。それが人の体験したいことなのです。
私は、こうなる理由について、あれこれと分析して、一つの面白いアイディアに行き当たりました。それは「ロボット」と呼ばれるアイディアです。

「ロボット」と言っても、あの、自動車工場で仕事をしている、労働機械のことではありません。そうではなくて、人間の中に潜む、学習装置です。つまり「ロボット」は一種の心理装置と思ってください。

この「馴染みのパターンを使った新しいモノ」が、自分の身の回りに見あたらなくなってくると、人はモチベートされにくくなります。「精神力」や「根性」を発揮して、自分をムリヤリ駆り立てることはできますが、内心では無理が出てきます。

以上のことはすべて記憶の問題と深く関係しています。人には独特の優れた記憶力があるからパターンを見つけ出すのが早く、それに飽きるのも早く、また慣れるのも早いのです。パターンを感知するということは良くも悪くも「どうせ想定の範囲内だろう」と見当を付けることです。ポジティブにそれが破られるとうれしいサプライズになり、人はそれを強く欲しています。

ネガティブにそれが破られると一種の恐怖になります。そこから少々恐怖があってもいいから新しい体験を求めてやまない人と、恐怖を一切避ける代わりに日常に退屈してしまう人とに分かれていくのでしょう。