旧ライフハック心理学

心理ハック

050 「やり始めればやる気がわいてくる」と言われる心理学的な理由

以前からもう一つ納得できなかったことがあります。「やり始めれば、やる気になれる」という「作業興奮」についてのことです。これが有名になったのはたぶん、池谷祐二さんと糸井重里さんの『海馬』がよく読まれてからのことでしょう。

このブログでも何度か「今ひとつ納得できない感じ」についてお話はしてきました。やり始めても実際にはやる気になれない場合もあることや、「やり始めれば脳が興奮する」と言っても、何をやり始めれば脳がどう興奮するのかという細かな点を知りたくなります。読み始めると眠くなる本、というものもありますし。

ところに最近次の記事にぶつかって、少し了解が得られそうな気がしてきました。ライフハッカー[日本版]からの引用です。

クリーブ氏の短期記憶は数秒しかもたず、「実際にやっていなければ、ほとんどなにも記憶できない」とサックスは綴っています。しかし、クリーブ氏の音楽的な個性や演奏の持ち味は、ほとんど元のまま残っており、必要なのは「起動」させることだけだったとか。クリーブ氏は、音楽を演奏したり、合唱すると、以前の技を見事に実行。指や意識が動いている限り、美しい演奏ができたそうです。

クリーブ氏の妻は「音楽の勢いが、クリーブをひとつひとつ動かした。リズムやキー、メロディによって、どのフレーズにも前後関係があるので、彼は自分がどこにいるのかを正しく知っていた。音楽が止むとクリーブは元に戻ってしまう。しかし、演奏している間は、正常に見えた。」と書いています。

クリエイティブなプロジェクトにおいて、私たちはクリーブ氏と何ら変わりありません。勢いがなければ、筋道を失くしてしまうのです。

アイデアの実現に勢いが不可欠な理由と、これを実践する4つの方法 : ライフハッカー[日本版]

アイデアについての記事ということになっていますが、アイデアに限定することはないでしょう。これは作業一般について言えそうな内容です。「勢いがなければ、筋道を失くしてしまう」という説明は大まかすぎます。ここを詰めていけば色々面白いことが分かりそうです。

大事なのはまず「クリーブ氏の短期記憶は数秒しかもたず」というくだり。数秒。深刻な状況ですが、その何が問題かを考えてみると私達が「やる気になれない」理由も見えてきそうです。

たとえば散らかった部屋を片付けるという作業があります。片付けるためのモチベーションを高めるには何が必要でしょうか。部屋が片づいたイメージ。部屋を片付ける意味。部屋を片付けるのに必要な時間。片付けたあとのこと。片付ける手順。けっこういろいろあります。そのすべてを意識しておくのは私なら困難です。

これを短期記憶の限界ととらえてもいいでしょうし、意識内容への注意力の限界と見てもいいでしょう。想像力の限界とも言えますし、集中力の制御の失敗とも言えます。345×9876を暗算でやってみようとすれば、私が言っていることは分かっていただけます。

345×9876の問題は、紙に書くことで解決できます。やる気が出ないときに紙に書くという一見意味不明なライフハックに効果があるのは、これが理由の1つです。そしてもう一つのライフハックが「手を動かすこと」です。

リズムやキー、メロディによって、どのフレーズにも前後関係があるので、彼は自分がどこにいるのかを正しく知っていた。音楽が止むとクリーブは元に戻ってしまう。

言語化はもちろん意識化すらできない意識内容というものがあります。本を手に取り、脇へどけ、本棚に秋を作り、似たカテゴリの本をまとめ、似た形状の本をまとめ、もう読まなさそうな本を段ボールに詰める。そういう作業中間断なく脳のいろいろな箇所がいろいろな活動を始めるわけです。

椅子に座って手を止めて空想している際には決して活性化することをイメージできなかったたくさんの細部が一斉に動き出して、まったく想像もしていなかったようなモチベーションが高まり、想像しなかった光景が現れるわけです。

これが動き出せばやる気が出るからくりの正体だと思います。