旧ライフハック心理学

心理ハック

「取りかかるために必要なやる気は、取りかかることによって湧いてくる」とすると?

Lifehacking.jpさんで、拙著の書評をいただきました。どうもありがとうございました。

感じ入ったのは、次の一節。確かにここに引用されたような「逆説」を中心に本を作っていきました。

たとえば「仕事をコーヒーのように味わう」という節では「仕事が好きだから毎日やるのではなく、毎日やると決めたことだから仕事が好きになる」という逆説的なつながりが指摘されています。(中略)「どのようにすれば仕事に集中できるか」という問題が、どのようなことなら繰り返せるかという具体的な問題に還元されます。

心を制する者は己を制する。すべての仕事術をくつがえす「心理の力」
http://lifehacking.jp/2010/11/the-power-of-the-mind/

この種の「逆説」にこだわって書いたのは、心理を出発点にしてしまうと、永遠に解決されない問題の前で、不毛な堂々めぐりに終わってしまう。それを避けたかったのです。

このエントリの中で堀さんも書かれていましたが、「やるべきことをすべて書き出し、タスクを適切な大きさに砕き、適切なコンテキストに配置し終えたころで」(まずここまでやらない人も大勢いますが)仕事をする気がしない、という問題をタスク管理ツールが解決してくれるわけではありません。

池谷祐二さんの『海馬』に、作業興奮、つまり「取りかかるためのやる気は、取りかかってしまえば湧いてくる」という「マインドハック」が登場し、人気があります。これもまた、上記の「逆説」です。ふつうに考えるなら「やる気」→「行動」となるところを、「行動」→「やる気」としているからです。

ここのところは、厳しめのライフハックな人ですと、「甘えたことを言わないように」で済まされるところかもしれません。完璧にしつらえられたタスクリストを前にして「やる気が出ない」といって止まってしまうというのは「問題以前」とみなされることも多いのです。

ただ、私自身とこのブログ、mindhacks.jpにとっては、この問題こそがもっとも大事な問題です。「取りかかればやる気が出る」というのは、それですむ場合には優れたマインドハックでしょうが、「取りかかればやる気が出る」けど「その取りかかるためのやる気を出すにはどうすればいい」のかと言えば「取りかかればやる気が出る」のか、でも…という自問自答を永久に繰り返しそうになったところに、このブログの出発点があるからです。

私自身が提供する解決案の1つに、「タスクシュートで午前中だけの見積もりでいいから出してしまう」というマインドハックがあります。なぜそれで「やる気が湧く」のかと言われれば、その時点で作業を始めてしまっているからというのが1つでしょう。

もう一つが「やる気がしない理由を正当化する」こと。これも逆説的ですが、たいていこの「正当化」に失敗します。するとやる気が出ることがあるのです。

いずれにしても最終的な目標は、やる気が出ないという考えから注意を外し、作業に注意をロックオンすることです。そしてそれはマインドハックなのです。なぜなら、やる気が出ないという問題を、注意を切り替えるという問題に取り替えているからです。