ライフハック心理学

心理ハック

007 「認知資源」が睡眠によって回復する認知科学的な理由

006のエントリの最後に

徹夜は認知資源を回復するタイミングを失います。このテーマについて本当なら認知科学(脳科学)の知見を援用しなければならないのですが、それについてはまた将来のエントリに改めます。

006 仕事モードに悪影響を残す6つの習癖 – ライフハック心理学

と書きました。ここまで来るとマインドハックと言うより中途半端な学術論文みたいになってしまいますが、一応私が知る限りでは次のような説が説得的です。

大事なのは「夢見の睡眠」(REM睡眠)であるという説なのですが、夢を見ている最中はノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの一部神経伝達物質が放出されなくなると言うのです。

▼参照資料
PDF(英文)

なぜでしょう?

比較的有力な説明として、夢見中に身体が動いてしまっては困るから、というものがあります。夢の中にはかなり刺激の強い内容もあります。そんな刺激の強い「幻覚」を相手に身体を動かしてしまっては危険です。だから夢を見ながらそこら辺を歩き回るというのは不都合なのですし、目だけ覚めてしまって身体が動かないという症状(俗に言う金縛り)も存在します。

一部神経伝達部室が抑制される重要な理由としては他にもあります。夢を記憶しないようにするためです。

ふつう、強い感情を揺さぶられるような体験をするとそのことは忘れられなくなります。9/11や3/11のことを努力せずとも覚えておけるからくりが働いているわけです。

しかし夢というのは相当刺激的な体験であっても(危うく殺されそうになるとか、人を殺してしまったなどの)、ふつうの人は目が覚めて数分以内に忘れてしまいます。これは不思議ではありませんか? フロイトなどは夢のこういう性質に気づいて、ユニークな説を唱えていますが、これにも神経伝達物質がからんでいると説明されます。

どう見ても夢の内容は不合理きわまりないので、鮮明に覚えていても日常生活の役には立たないのです。役に立たないどころかむしろノイズになります。内容によっては危険です。だから分析心理学などの方式を容れて、夢日記をつけようとしても、そう簡単にはいかないのです。

REM睡眠中はこのように、ノルアドレナリンなどの活動が抑制されるという説があるわけです。そしてノルアドレナリンもセロトニンも、覚醒時にきわめて重要な役割を担っています。つまりこれらの重要な伝達物質の機能が「回復」するために睡眠が必要というわけであり、それらが「認知資源」に欠かせない物質であると考えるのは、妥当だと思えます。